早いものでASK?映像祭も今年で10回目である。もともとこの映画祭は、映像のコンペティションを行うところから始まっていて、コンペの入賞作を発表する場を広げようという話から映像祭という名を付けたイベントに発展したのであった。あいかわらず小さくて地味な映像祭であるが、それが10年も続いたのは、ひとえにコンペに応募してくれたすぐれた作家たちのおかげである。
今回のコンペも例年通り多くのすぐれた作品が集まった。わたしは、すべての作品を見た段階でとくに気になる作品が三つあった。朱彦潼の『コップの中の子牛』、さとうちひろの『さとうのちひろ』、山田遼志の『Waiter』である。わたしは、この三作ならばどれが大賞になってもよいと思っていた。
結局大賞は、三人の審査員が共通して評価した『さとうのちひろ』に決まった。ごくごく短いお話がいくつも合わさった作品なのだが、そのひとつひとつがなんともとぼけた感じのシュールな内容になっている。画面のなかにコマ割があるのも効果的で、独自の世界観をつくりだしていた。
久里賞には李旭堃の『犬の夢』、ASK?賞には円香の『GYRO』が選ばれた。これらは、それぞれの審査員が自分で選んだ作品である。実をいえば、いずれもわたしには予想外の選択で、人の評価はさまざまだと改めて思った次第である。『犬の夢』は、洪水に巻きこまれる世界を犬の視点で描いていて、丁寧に描きこまれたアニメーションであった。『GYRO』は、奇妙なキャラクターが登場するアニメーションで、さまざまな素材や技法を使った個性的な作品となっている。
西村賞は、『コップの中の子牛』と『Waiter』のどちらにするか悩んだが、前者を選ぶことにした。『コップの中の子牛』は、幼い子供の日常を幻想的なイメージを交えて描いている。絵も動きも実に達者で、子供から見た世界が丁寧に描写されていて、アニメーションとしての完成度が高い。『Waiter』も完成度の高い作品である。奇妙なキャラクターが跋扈するシュールな世界が描かれているのだが、キャラクターが魅力的で、画面の質感などにこだわっているところなどもわたしの好みであった。
中野咲の『花芽』は、ドローイングによるアニメーションである。シンプルな線に限定することで女性の身体感覚を手描きによる線の魅力として描くことに成功している。冠木佐和子の『肛門的重苦』も女性の身体がテーマだが、こちらはなんともぶっ飛んだ作品で、最初に見たときは唖然としてしまった。しかし、もうひとつの入選作『Ici,La
et partout』では彼女のもつ繊細な感性を垣間見ることができる。
川平美緒の『奇妙なフォーク』は個人的に好きな作品である。エキゾチックな世界をアニメーションにしていて、風景の描き方や象徴的なイメージの使い方にセンスを感じる。坂井治の『デジタル』は、タイトルと裏腹にアナログな作品で、東京の人をイメージ化しているらしい。さまざまなスタイルを混在させた実験的な作品だが、形態のメタモルフォーゼが楽しく、アニメーションが本質的にもっている魅力を引き出している。
佐藤美代の『Through the Window』は、窓から見える風景からさまざまなイメージが膨らんでいく作品である。少々地味だが、描きながら動画化していく手法をうまく取りこんでいた。河野佑香の『mangekyou』は、シンメトリーの効果を活かしているのがおもしろくセンスもあるが、もう少し展開がほしいところである。
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