新鋭メディアアーティスト・ジョイントタッグ
「照準と流出」
2012年6月20日(水)〜7月5日(木)
11:30〜19:00 日曜休廊
会場:art space kimura ASK? (2F) + ASK?P (B1F)
土居下 太意 ≪トクトクマウス≫ (pouring mouse) 2011 / ASK?P (B1F)
時里 充 ≪カメラAとカメラB≫ 2012 / ASK? (2F)
「照準と流出」というテーマが一種必然的なものとして筆者の中に訪れたのは、彼らが日常機器を用いて情報のフィードバック・プロセスを扱う点で共通しながらも、情報の扱いや表現が対極的だったことによる。改造され異形化した巨大なマシンをさらに複数の機器へと接続することで途方もない拡張へと向かう土居下、ミニマルでコンセプチュアルな自己言及性へと収斂していく時里。この鮮やかなコントラストは、相反しているようで実は根底でつながっているのではないか。それを開示するためのキーワードが、「照準と流出」である。
土居下と時里は、今年3月に同じ大学の同じコースを卒業、在学中は互いの作品に触発されていたという。今回のフレーミングは、
潜在的な感応を行っていた2人の作品を、「照準と流出」という補助線を引くことで明るみへと誘導し、新たな位相へともたらすためのものである。
「照準」は、何らかの主体が特定の目的をもってターゲットを定めるという、一方的でリニアなヴェクトルをもつ。それに対して「流出」は、照準からはみ出てしまう、ノンリニアで収集のつかない、予測不可能な受動的許容態と言えるだろう。軍事・視覚技術に由来する「照準」が、世界を静止的かつ予定調和的に獲得しようとする運動だとするなら、「流出」は、世界を特定の意図において表象させえない動的分散としてある。
「照準」と「流出」は、根本的に相容れない世界観をあらわすかのように見える。しかし両者は、まさにそのことによって相互補完性を獲得している。なぜなら一方(照準)を究極的に突きつめるほど、もう一方(流出)――そこからはみ出すもの――も増加してしまうからである。また両者は、世界を情報の入出力プロセスとしてみなすという世界観においても連続的関係にある。
土居下作品では、体験者がペンタブレットを使用して入力へと「照準」を合わせようとしても、巨大なインターフェイスの身体的負荷も手伝い、意図的な制御が困難な状況に置かれてしまう。情報的にもこの作品は、異質のメディアが接続されることで、データが意味もなく
「流出」する、一種ナンセンスな状況にさらされる。時里作品では、カメラが互いに照準を合わせ撮影しつづけるフィードバック・ループを形成することで、瞬時の連続的積層によるただならぬ緊張感に空間が支配されている。ここでは「照準」が、相互を縛りつつも関係性の無限ループに開かれることで、予測不可能な「流出」的状況を生み出すことになる。
加えて二つの展覧会を比べるなら、その構造やインスタレーション、データプロセスのとりとめのない拡張性によって、土居下作品に
「流出」的傾向を、作品やシステムのミニマルなセットアップと収斂性によって、時里作品に「照準」的傾向を、より強く見てとることができるだろう。
それぞれ「照準」と「流出」的なものと解釈できる二つの展覧会。各展覧会において入れ子的に潜在している「照準」と「流出」‥。そこには、異なるメディアや装置に接続され、情報やコードが変容しつづけるプロセスを創造とみなすまなざしが息づいている。
四方幸子(「照準と流出」キュレーター)
■作家略歴
【土居下 太意 プロフィール】
1989年生まれ。
2012年多摩美術大学情報デザイン学科情報芸術コース卒業。
多摩美術大学大学院美術研究科在籍。
「くだーtube」、エフェクトをコンセプトに、主にパフォーマンス作品を制作している。
2011年第17回学生CGコンテストにて本作が審査員賞を受賞。
【時里 充 プロフィール】
プロフィール:1990年生まれ。
2010年 IAMAS(国際情報科学情報芸術アカデミー)DSPコース卒業。
2012年多摩美術大学情報デザイン学科情報芸術コース卒業。
■イベント
≪ ライブパフォーマンス ≫
6月23日(土) 17:00〜19:00
土居下太意〈shという発音の出し方と移動〉&more !
≪ アーティスト・トーク ≫
6月30日(土) 17:00〜19:00
※イベントは両日とも入場無料です
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