ASK映像祭2009 審査総評
西村智弘(映像評論家)
「ASK映像祭」のコンペティションは、早くも今年で6回目となった。あいかわらず応募総数が多いとはいえないし、小規模のささやかな試みにすぎないが、毎年入選する作品のレベルは決して低くないし、いち早く作品を評価してきた実績もある。少なくともこの点に関しては、他の大規模なコンペティションに引けを取らないだろう。
今回はどうであろうか。全体的にみるならばこれまでの水準を保っている。しかし、とくに大賞を選定するに当たっては、審査員の意見がまったく噛み合わずに混迷した。審査員はそれぞれ、作品に対する独自な考え方があって、それが良くも悪くも作品の選定に反映している。
最終的に大賞に選ばれたのは、佐竹真紀の『暮らしあと』であった。わたしは、この作品が大賞に選ばれるとはまったく予想していなかったが、誰もいない部屋と大勢の人がいたときの写真を重ねるアイデアはおもしろく、両者のギャップに暮らしの情感がにじみでていた。
久里洋二賞には、岩崎宏俊の『Between Showers』が選ばれた。雨のなかで傘をさして歩く人をシルエットで描いたアニメーションである。派手なところはないが、叙情的な雰囲気がよく出ていて好感のもてる作品である
西村智弘賞には、植草航の『向ヶ丘千里はただ見つめていたのだった』を選んだ。かわいらしい絵柄ながら、生と死を行き来するシュールなイメージとテンポのよい展開には独自なものがあり、現代的なセンスを感じさせる。
ASK賞となった島田量平の『dorothy (ragged film #4)』は、アブストラクトの作品である。フィルムを使っているところがかえって新鮮で、デジタル映像にはない物質的な硬質のイメージをつくりだしている。
入選の今津良樹『アトミック・ワールド』は、テンポよくイメージが変化しいくアニメーションである。よくできた作品で、最初わたしはこれを大賞にしてもよいと思ったぐらいである。李東勲の『くじびき』は、子供の心情をうまく表現しており、個性的な絵柄が印象的である。藤崎翔子の『影は永遠のこども』は、決して達者ではないのだが、その素朴さがいい雰囲気をつくっている。
水江未来は、ASK映像祭の常連である。今回の『JAM』は、小品ながらも水江独自の世界を展開している。
最勝健太郎の『根の国の光』は、幻想的な世界を描いた実写の作品である。ホラー映画のようなシーンもしっかりつくっていて、力量を感じさせる。飯田千里の『おまつりのよる』は、子供の体験した幻想を素朴な絵柄でうまく表現している。渡辺俊介の『Mother』は、ネットから拾った映像を加工したファウンドフッテージの作品で、モチーフを母に限定して独特のイメージをつくりだしている。孫于景は見せ方のうまい作家で、かつてASK賞を受賞したことがある。今回の『#1滝』では、滝の水をセンスよくデザイン化している。
木邑 芳幸(ASK?代表)
2009年ASK?映像祭も今年で6回目を迎えた。今回は応募数23作品でほぼ例年通り の数となった。全体的にアニメーション作品が多い中、実写、フィルムコラージュなどで
良質な作品もみられた。連続して参加する作家もみられ、回を重ねるごとに技術的に 熟達した作品が増えた。そのままミュージックビデオなど有償コンテンツに成り得るのではないかと思わせる作品も見られたが、ギャラリーで行うコンペティションでは独創性、
創造性など新しい表現に対する試みをしている作品、時代への問題提起を感じさせる作品などに注目した。
大賞となった佐竹真紀の「暮らしあと」は家族の写真とビデオ画像、音声が時間を隔てて同一空間上にコラージュトいく実験的な作品である。
空き家を訪ねた家族が手にかざした過去の家族写真が動画に変容し、老婆の声共にリアルなイメージが立ち現れてくる様は、実験的な面白さと共に高齢化の問題など身近なテーマとしても心に響いた。
岩崎宏俊の「Between Showers」は雨で傘をさし始める人々のアニメーション作品である。雨が降り始める瞬間の人々が一斉に傘をさす姿と傘が開くフォルムの美しさをシンプルに表現している。スローで美しい音楽が作品を引き立たせている。
植草 航の「向ヶ丘千里はただ見つめていたのだった」は現代を生きる女子高校生の無力感、憔悴した日常などを描いたアニメーションであるが、社会問題となりつつある青少年の世界をスピード感ある展開、残酷性も秘めた独特の美しい画像で描いた魅力的作品である。島田量平の「dorothy」(ragged
film #4)はフィルムコラージュを用いた極めて実験的な作品である。ノイジーな音と共に丁寧に積み重ねられていくイメージが心地よく展開していく様は作家の手腕の確かさを感じる。フィルムに残された映像は記録された時点で被写体とフィルムのレンズを介した化学反応の痕跡である。島田量平の作品はあたかも時を隔てて現れた琥珀に閉じ込められた昆虫の如く蠱惑的であった。
入選作品も、僅差で質が高い作品であった。 今津良樹の「アトミック・ワールド」は映像のクオリティ、展開など商業コンテンツとしても通用するレベルに思えたが、まとまりが良過ぎて面白みに欠けてしまったのは残念である。李東勲の「くじびき」、藤崎翔子の「影は永遠のこども」、飯田千里の「おまつりのよる」は、それぞれ独自のアニメーションの世界を描いている。
水江未来の「JAM」、孫于景の「#1滝」はどちらも映像祭連続入賞者である。作品のクオリティは高いのであるが、前作からの発展性というところで、どうしてもあと一息を期待してしまう。
渡部俊介の「Mother」はメディアの画像などもソースとして使用した作品である、 社会性という点で問いかけてくるが、ビジュアル的なエフェクトが強い面で綺麗に流れてしまう傾向を感じた。最勝健太郎の「根の国の光」は神話を独自の解釈で映像化した作品である。モノクロの粒子の荒れた映像は独自のポエジーに満ちていた。
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