《曖昧な領域》ambiguous domain
伊藤英高 VS 鈴木浩之 ITO Hidetaka VS SUZUKI Hiroshi
キュレーター : 小松崎拓男 KOMATSUZAKI Takuo
7.14(Mon)-7.26(Sat)
日曜休 11:30-19:00(最終日17:00まで)
(上)伊藤英高 「経箱」 Media
Installation
(下)鈴木浩之 「Boat」Video Installation
謹啓
時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。
さて、ASK?では、「《曖昧な領域》ambiguous domain ? 伊藤英高 VS 鈴木浩之」と題し、
キュレーターに小松崎拓男を迎え、メディア・アーティスト伊藤英高、鈴木浩之の二人展を下記の通り開催します。
本展では、デジタル・テクノロジーを使ったアートの表現の中に潜む、曖昧さや多義性を、
伊藤英高の音を メインにしたメディア・インスタレーションと、
鈴木浩之の映像インスタレーションの中に、
探ろうとするも のです。
シンプルな作品に表出するセンシティヴでウイットに富んだ作品世界をお楽しみください。
謹白
■アーティスト・トーク 7月19日(土)15時より
出席 伊藤英高 鈴木浩之 小松崎拓男
■パーティ 7月19日(土)17時から19時
*アーティスト・トーク終了後、簡単なパーティを行います。
なお、初日ではありませんので開催日にご注意ください。
曖昧な領域 小松崎拓男
われわれの表現の領域は決して明快なものではない。
表現する自らにとっても、またそれらを目にするものにとっても、はかりがたい、
あるいは捉えがたい曖昧なものが常に含まれながら立ち現れるように思う。
それは、本来メディア・アートをもっぱらとする二人の表現者にとって、
その表現に使われるデジタル・テクノロジーの対極にあるように見える。
割り切れ、2進法の埒内に包摂されてしまう、ビットやピクセル。だが確実で明快であるはずのツールによって、
創り出される世界は、その音であれ、揺らめく映像であれ、見るものに具体的な回答を提示することはない。
知覚の内奥に深く感応し、反響する残像のように、それらは見るものに、心地よくも曖昧な感覚を残していくだろう。
伊藤英高の《経箱》と名付けられた作品は、福引きの回転する抽選器を回すと不可思議な音が聴こえてくるものである。
スピードを変えるとその音は微妙に変化していく。
甲高い音、低い音それらは聴く者のフィジカルな運動によって操られることになる。
聴こえてくるのは過去、現在、未来の意味を持たせたアニメーションの台詞や詩だという。
だがそれは言葉とは聴き取れまい。
チベット仏教に見られる「マニ車」を思い起こす。
円筒形の車に経文(真言)が巻かれ、これを回すことによって経文を唱えたこと同じになり、
功徳を得られたことになるという信仰の法具である。
われわれも伊藤の作品を回していると、揺れ動く音の振幅の時間の中で、
マニ車のそれのように悟りの高みを垣間見ることになるのだろうか。
一方、鈴木浩之の作品は、伊藤が音であるのに対して映像である。
《Boat》ではテーブルの上に船の航跡が現れ、それがテーブルに置かれたワイングラスをよけながら、
テーブルクロスの水面を航行していくことになる。
人は時々思いもよらないことを想像したりする。目の前の道が頭の中で川になったり、あるいは空が海に見えたりと。
カフェやレストランの白いテーブルの上に海を見る。それは一瞬の白昼夢のように、軽い幻惑を感じさせるだろう。
しかし、次の瞬間にはウイットの溢れるユーモアに思わず微笑むに違いない。
デジタルに構築されたこの作品にはそんな暖かみが隠されているように思う。
(本展キュレーター 美術評論家)
【出品作家、キュレーター略歴】
伊藤英高(いとう ひでたか ITO Hidetaka)
1968年北海道生まれ
1991年武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業
ふくい国際ビデオビエンナーレ、北京国際現代コンピュータ美術展などに出品。
コンピュータ・グラフィックスから音を使ったメディア・インスタレーションまで
幅広くメディア・アートの分野で 創作活動を行い、視覚に偏るデジタル・メディアに対する疑問を投げかける一方、
既製品のメディアへの応用などを研究。
武蔵野美術大学、東京芸術大学非常勤講師を経て、現在、金沢美術工芸大学准教授。
鈴木浩之(すずき ひろしSUZUKI Hiroshi)
1972年静岡県生まれ
2000年金沢美術工芸大学大学院博士後期課程修了 学位取得
2001年から2003年イタリア国立美術学院ブレラ留学
2008年三谷研究開発支援財団助成
映像を中心にしたインスタレーションによるメディア・アート作品を制作。
文化庁メディア芸術祭などに出品したほか、イタリアなど海外での作品発表を行っている。
このほか絵画制作も手がけている。現在、金沢美術工芸大学准教授。
小松崎拓男(こまつざき たくお KOMATSUZAKI
Takuo)
1953年千葉県生まれ
1983年学習院大学大学院人文科学研究科博士前期課程修了
1986年学習院大学大学院人文科学研究科博士後期課程中退
美術館キュレーターとして数多くの展覧会企画を行う。
主な展覧会として「TOKYO POP」(平塚市美術館)「New Media New Face New York」
(NTTインターコミュニケーション・センター[ICC])「絵画新世紀」(広島市現代美術館)などがある。
ICC学芸課長、広島市現代美術館学芸課長、副館長を経て、現在、金沢美術工芸大学教授、美術評論家。
【会場風景写真/PHOTO】