ASK?映像祭2008総評

西村智弘

 ASK?映像祭のコンペティションは、今年で4回目を迎える。例年のごとく応募総数は決して多くないものの、全体の作品レベルはかなり高く、個性的な作品が集まっている。ギャラリーの主催するアート志向の映像コンペとして独自な位置を確立しつつあるといえそうである。
 第一回目から審査の方法は変わっていない。久里洋二、西村智弘、木邑芳幸の三人の審査員が、評価すべき作品をあげ、それを照らし合わせて受賞作品を決める。毎回、審査員の評価にはかなりバラツキがあり、必ずしも審査員全員が同じ作品を選んでいるわけではない。基本的には、評価の重なった作品が上位で入選することになるが、なかにはひとりの審査員が高く評価したために選ばれた作品もある。以下、受賞作品についての寸評を述べる。
 大賞となった岡本将徳の『パンク直し』は、自転車のパンクを直しているところを淡々と描いた切り絵のアニメーションである。こういう題材を描いたアニメーションは珍しい。リアリズムに徹しているが、それを切り絵アニメで描いているところに独自な面白さが生まれている。

 久里洋二賞となった大西景太の『floating polyhony』は、音楽に合わせて幾何学的な形などが動くアニメーションで、音楽と図形の動きの同調がみごとに決まっている。センスがよく楽しく見ることのできる作品である。彼のセンスのよさは、入選作の『cakes』でも発揮されている。

 西村智弘賞となった一瀬皓コの『ウシニチ』は、アニメーションの技術としては弱いところもあるのだが、なんともいえない脱力系のユーモアは高く評価できる。バラバラなエピソードが予想外に展開してひとつにまとまる構成もよい。

 ASK?賞となった平川祐樹の『Resight』は、昔の写真と同じ場所を見つけだし、写真に現在の風景を増やしていくという作品である。シンプルな構成のなかに、歳月を感じさせる作品になっている。

 以下は入選作品である。『DEVOUR DINNER』の水江未来は、ASK?映像祭の常連といってよい。自分のスタイルを確立しているアニメーション作家で、今回の作品も水準が高い。昨年に西村賞を受賞した横田将士は、アニメーションの技法で連続写真を三次元の空間に展開する作家である。今回の『記憶全景』は、前作と異なった新たなスタイルに挑戦している点が評価できる。
 シュールでファンタスティックな物語を描いた橋本新の『グレートジャーニ』、祖父の思い出を立体アニメーションで描いた山城智恵・本田愛の『おじいのサバニ』は、いずれも堅実な技術で独自な世界をつくりだしている。平田茉衣の『らしずむ』はその奇妙な発想が、田中惇司の砂絵アニメーション『BALANCE』は幻想性と美しさが、地形を楽譜にした中尾峰の『地形譜』はアイデアとセンスが、インナートリップというべき高橋昴也の『the vision quest』は技術力の高さがそれぞれ評価できる。

 アニメーションが多いのは例年通りであるが、全体的にはバラエティに富んだ作品が集まっている。技術的には達者でも個性の希薄な作品が多いなかで、独自な作品世界をもつことができることはなによりも貴重なのである。今後、それぞれの作家たちがさらに独自な世界を追及し、新たな作品に挑戦していくことを期待している。

 

 


ASK?映像祭2008総評

木邑芳幸

今年の応募総数は昨年よりも大幅に増え、作品の質も平均的に高かった。
去年に引き続き出品された方や、一人で何作か出品された方などが、応募総数が増えた 要因の一部と考えられる。
作品の傾向としては、アニメーション、実写、CGなど、多岐に渡っていた。

教会での出来事をスナップで撮っている中に、ハプニングが発生し、ドラマとドキュメンタリーの間を揺らぎながら進む古市牧子の「Pour I' amour de Dieu」は新しいタイプの作品と感じた。
大西景太は「floating polyphony」、「cakes」二作入賞、入選となったが、シンプルながら、幾何学図形と運動、音楽とのマッチングの面白さをストレートに表現されていた。
水江未来「DEVOUR DINNER」、横田将士「記憶全景」は昨年に続いての入選となったが、各々手法、テイストなど、更に進んでいると感じられた。
しかしテイストが固まった分、新しさがもう少し欲しいと思うのは贅沢であろうか・・

一瀬皓コ「ウシニチ」は、キャラクターの印象深さとホノボノしたストーリーが独特の世界を築いている。
平川祐樹「Resight」は風景の中に二つの隔たった時間を建物、乗物などのアイテムで巧みに表している。最近目覚しく都市開発が進むなかで、現実の風景が オーバーラップしてくる。
大賞の岡本将徳「パンク直し」は、近所の自転車屋がパンクを直すという単純極まりないストーリーであるが、切り絵という細部を表現するには不利と思われる手法を用いながら、職人技のポイントを逆に抽出し、あたかも職人技に接しているかの如き感覚を呼び起こすのは、作者の非凡な才能であろう。壮大なストーリーが溢れる映像界で目から鱗が落ちる作品であった。